「Next.jsエンジニアを採用して内製化すべきか、それとも専門会社に外注すべきか」
この質問を、この1ヶ月だけで5社の経営者から受けました。DXの必要性が叫ばれる中、多くの企業が同じ悩みを抱えているようです。しかし、この問いに対する画一的な答えはありません。企業の規模、業界、戦略、そして何より「何を実現したいか」によって、最適解は変わってきます。
今日は、実際に両方のアプローチを支援してきた経験から、それぞれのメリット・デメリット、そして「第三の道」について、具体例を交えながらお話しします。この記事を読み終える頃には、あなたの企業にとっての最適な選択が見えてくるはずです。
内製化の現実:想像以上に険しい道のり
「優秀なエンジニアを採用して、自社でシステムを作りたい」この想いは、多くの経営者に共通しています。確かに、内製化には魅力的なメリットがあります。
まず、自社のビジネスを深く理解したシステムが作れます。細かい要望にも即座に対応でき、機密情報も外部に漏れる心配がありません。長期的に見れば、外注費用の削減にもつながります。
しかし、現実はそう甘くありません。ある製造業の事例をご紹介しましょう。
従業員500名のこの会社は、Next.jsエンジニアを3名採用し、内製化に踏み切りました。年収600万円×3名、採用費用300万円、開発環境整備に500万円。初年度だけで2600万円の投資です。しかし、1年後、完成したのは簡単な在庫管理システムのみ。しかも、バグが多く、現場からは不満の声が上がりました。
何が問題だったのでしょうか。実は、優秀なエンジニアを採用することと、優秀なチームを作ることは、全く別の話なのです。
採用したエンジニアは確かに技術力はありましたが、業務知識がなく、要件定義に苦労しました。また、3名では、誰かが休むと開発が止まってしまいます。さらに、マネジメント経験者がいなかったため、プロジェクトは迷走しました。
そして最大の問題は、「育成」です。技術は日々進化します。社内に知見が蓄積されていない中で、エンジニアのスキルアップをどう支援するか。この会社は、結局外部研修に年間200万円を投資することになりました。
外注の落とし穴:コントロールを失う恐怖
では、外注なら安心かというと、そうでもありません。外注にも、特有の課題があります。
ある小売企業は、大手SIerにECサイトの構築を依頼しました。見積もりは3000万円、期間は8ヶ月。「プロに任せれば安心」と考えていました。
しかし、プロジェクトが始まると、問題が次々と発生しました。まず、コミュニケーションの齟齬。「カートに入れる」ボタンの位置一つ変更するのに、仕様変更申請書を書き、承認を得て、追加費用50万円。この硬直性に、担当者は頭を抱えました。
さらに、ベンダーロックインの問題。完成後、ちょっとした修正も、すべて開発会社に依頼しなければなりません。月額保守費用は30万円ですが、機能追加は都度見積もり。結果、年間の運用コストは1000万円を超えました。
最も深刻だったのは、「ブラックボックス化」です。システムの中身が分からないため、他社に乗り換えることもできません。まさに、人質に取られたような状態です。
この企業の情報システム部長は、こう嘆きました。「外注に頼りすぎた結果、自社でIT戦略を考える力を失ってしまった」
理想と現実のギャップ:人材市場の厳しさ
内製化を検討する企業の多くが直面するのが、人材獲得の困難さです。
2025年現在、Next.jsエンジニアの有効求人倍率は約10倍。つまり、1人のエンジニアを10社が奪い合っている状態です。特に地方都市では、さらに厳しい状況です。
仮に採用できたとしても、定着率の問題があります。IT人材の平均勤続年数は3年。せっかく育てても、より良い条件の会社に転職してしまう。この現実に、多くの企業が苦しんでいます。
報酬面でも、大手IT企業との競争は厳しいものがあります。優秀なNext.jsエンジニアの年収は、都内では800万円〜1200万円。中小企業には、なかなか手が出ない金額です。
さらに、エンジニアが求めるのは給与だけではありません。最新技術への挑戦機会、柔軟な働き方、成長できる環境。これらをすべて提供できる企業は、どれだけあるでしょうか。
第三の道:ハイブリッドモデルの可能性
内製化も外注も一長一短。では、どうすればいいのでしょうか。私がお勧めするのは、「ハイブリッドモデル」です。
これは、コア機能は内製化し、専門性の高い部分は外注するという approach です。さらに、外注先とは単なる発注者と受注者の関係ではなく、パートナーシップを構築します。
成功事例をご紹介しましょう。従業員200名の物流企業での取り組みです。
この企業は、まず「プロダクトオーナー」となる人材を1名採用しました。エンジニアではなく、ビジネスとITの橋渡しができる人材です。年収は500万円と、エンジニアより抑えられます。
次に、Next.jsシステム開発に特化した開発会社とパートナーシップ契約を結びました。単なる外注ではなく、月額制のアジャイル開発契約です。これにより、柔軟な要件変更が可能になりました。
さらに重要なのは、「知識移転」を契約に含めたことです。開発会社のエンジニアが、月に2回、社内勉強会を開催。社員のITリテラシーが向上し、より建設的な要件定義ができるようになりました。
1年後、この企業は簡単な機能なら社内で修正できるようになり、複雑な開発は引き続きパートナー企業と協働しています。コストは外注の70%、スピードは内製化の150%を実現しました。
判断基準:あなたの企業に最適なモデルは?
では、どのような基準で判断すればよいのでしょうか。私は、以下の5つの軸で考えることをお勧めします。
第一に、「戦略的重要度」です。そのシステムが競争優位の源泉になるなら、内製化を検討すべきです。例えば、独自のアルゴリズムを使った レコメンドエンジンなどは、内製化の価値があります。一方、一般的な管理システムなら、外注で十分です。
第二に、「変更頻度」です。毎週のように機能を追加・変更するなら、内製化かハイブリッドモデルが適しています。年に数回程度なら、外注でも問題ありません。
第三に、「企業規模」です。従業員1000名以上の大企業なら、内製化チームを維持できます。100名以下の中小企業なら、外注かハイブリッドが現実的です。
第四に、「業界特性」です。IT企業やEC企業など、システムが事業の中核なら内製化。製造業やサービス業など、システムが支援的役割なら外注やハイブリッド。
第五に、「成長段階」です。スタートアップで資金が限られているなら、まず外注でMVPを作り、成長に応じて内製化。成熟企業なら、最初からハイブリッドモデルを構築。
内製化を成功させるための条件
もし内製化を選ぶなら、成功のための条件を整える必要があります。
まず、経営層のコミットメントが不可欠です。IT部門に丸投げではなく、経営戦略として位置づける。CTO やCDOといった専門役員の設置も検討すべきです。
次に、採用より育成を重視することです。未経験者を採用し、じっくり育てる。時間はかかりますが、企業文化に合った人材を確保できます。実際、ある企業は新卒を採用し、3年かけてNext.jsエンジニアに育成。定着率は90%を超えています。
また、エンジニアが働きやすい環境を整えることも重要です。最新のPCとモニター、快適な椅子、集中できる個室。これらの投資は、生産性向上で必ず回収できます。
さらに、失敗を許容する文化が必要です。新しい技術への挑戦には、失敗がつきもの。「失敗から学ぶ」文化がなければ、エンジニアは成長できません。
外注を成功させるためのポイント
外注を選ぶ場合も、成功のポイントがあります。
最も重要なのは、パートナー選びです。価格だけで選んではいけません。技術力、実績、企業文化の相性、そして何より「長期的な関係を築けるか」を重視すべきです。
契約形態も工夫が必要です。従来の請負契約ではなく、準委任契約やアジャイル開発契約を検討しましょう。これにより、柔軟な開発が可能になります。
また、丸投げは禁物です。要件定義、受入テスト、プロジェクト管理には、必ず自社メンバーが参加する。これにより、ノウハウの蓄積とベンダーロックインの回避が可能です。
コミュニケーション方法も重要です。週次の定例会議、Slackでの日々のやり取り、画面共有での レビュー。密なコミュニケーションが、プロジェクトの成功を左右します。
ハイブリッドモデルの設計方法
ハイブリッドモデルを採用する場合、役割分担の明確化が鍵となります。
一般的には、以下のような分担が効果的です。自社は、ビジネス要件の定義、プロジェクト管理、簡単な修正・運用を担当。パートナー企業は、アーキテクチャ設計、複雑な開発、技術サポートを担当。
重要なのは、「境界」を明確にすることです。どこまでが自社の責任で、どこからがパートナーの責任か。これが曖昧だと、責任の押し付け合いになります。
また、知識共有の仕組みも重要です。定期的な技術勉強会、ペアプログラミング、ドキュメントの共有。これらにより、徐々に自社の技術力を高めていきます。
契約は、段階的に見直すことをお勧めします。最初は外注比率80%でスタートし、1年後に60%、2年後に40%といった具合に、徐々に内製化比率を高めていく。これにより、リスクを抑えながら、内製化を進められます。
コスト比較:本当はどれが安いのか
コストは重要な判断基準ですが、単純な比較は危険です。見えないコストも含めて、総合的に判断する必要があります。
内製化の場合、エンジニア3名で年間2400万円。しかし、これに採用コスト、教育コスト、離職リスク、管理コストを加えると、実質3000万円以上かかります。
外注の場合、開発費2000万円、保守費年間400万円。5年で4000万円ですが、仕様変更や機能追加を含めると、5000万円を超えることも珍しくありません。
ハイブリッドモデルの場合、プロダクトオーナー1名500万円、パートナー契約年間1200万円。5年で8500万円ですが、柔軟性と成長性を考慮すると、最もコストパフォーマンスが高いと言えます。
ただし、これはあくまで一例です。重要なのは、「投資対効果」で考えることです。3000万円かけて5000万円の価値を生むなら、それは良い投資です。
将来を見据えた選択
5年後、10年後を考えることも重要です。
AI の進化により、プログラミングの自動化が進んでいます。将来的には、ビジネス要件を入力するだけで、システムが自動生成される時代が来るかもしれません。その時、価値を持つのは「何を作るか」を決められる人材です。
この観点から、私は「ビジネスとITの橋渡しができる人材」の育成を強く推奨します。彼らは、内製化でも外注でも、ハイブリッドでも、中核的な役割を果たします。
また、技術の標準化も進んでいます。Next.jsのようなフレームワークを使うことで、開発会社を変更しても、スムーズに引き継げます。これにより、ベンダーロックインのリスクは軽減されています。
まとめ:正解はない、最適解はある
内製化か外注か。この問いに、絶対的な正解はありません。しかし、あなたの企業にとっての最適解は必ずあります。
重要なのは、自社の状況を正確に把握し、将来を見据えて判断することです。そして、一度決めたら終わりではなく、状況に応じて柔軟に見直すことです。
私たちは、多くの企業の意思決定をサポートしてきました。内製化支援、外注受託、ハイブリッドモデル構築。どのアプローチでも、成功の鍵は「パートナーシップ」です。
Next.jsシステム開発は、単なる技術導入ではありません。組織の成長戦略そのものです。だからこそ、慎重に、しかし大胆に、決断する必要があるのです。
あなたの企業は、どの道を選びますか?その選択が、未来を決定づけることになるでしょう。